Masaharu Fukuyama Presents

♯.12 「I remember ・・・佐山佳晃編 @」
(NOV/17/04)

どんな時にでも 「前進」 を目指している江坂ジムなんやけど、今回のコラムは少し振り返ってみて “心に残る江坂ジムファイター” を紹介してみようと思う。
決して脚光を浴びる事もなくリングを下りて行った男達、ボクサーとして何の肩書きも残せずに、プロボクサーだった事すら忘れ去られてしまった奴ら。
そんな輝けなかった奴らやけど、俺の心には消し去る事の出来ない思い出を残してくれた大事なファイター達だった。
それぞれの 「想い」 は同世代の遊びに夢中な学生には伝わる事もない、イヤ、伝える必要もない。もし、気持ちを代弁するのなら・・・
『ただ、ボクシングがしたかっただけ・・・俺にはボクシングしかなかっただけ・・・』

佐山佳晃、1戦1敗でグローブを壁に吊るした江坂ジムファイター。
正確にはボクシング人生を閉じざる得なかったファイターといえる。
2度目のプロテストでようやく合格出来た佐山に俺らトレーナーが出した答えは「プロとしての最低レベルが付くまで試合には出さない」 だった。
しかし、来る日も来る日も 「認めてくれ」 とばかりに練習を続ける佐山。
淡路島から拳に “志” を抱き単身やって来たあいつの練習には鬼気迫るものがあったな。
そんな状態が半年も続いた頃だろうか。プロモーターより 「4回戦一枠使ってもいいよ」 と連絡をもらい、他の将来有望なセンスある選手よりもこの佐山をデビューさせてやりたい、と一番にそう考えた。
そして平成15年7月11日、大阪府立体育会館でプロデビュー戦を決定させた。

 「リング禍」 ・・・それは誰もが自分の身には起こらない、自分のジムには関係がないと考えがちだ。 皆が日頃TVや映画などで観る事件などが自分の周りでは起こらないだろうと思っているように。
自分を極限まで追い込んで万全を期してリングに向かう佐山自身も、そして俺らもそんな気持ちで過ごしていたな。
試合前日、計量が終わり佐山を食事に連れて行った時の事。
「あれだけ練習したんや。リングへ上がるまでの過程、今日この日までは少なくともお前の勝ちや!もし明日でボクシング人生が終わる事になったとしても何も恥じる事はない。明日は胸を張ってリングへの階段を上がれ!」 と話したものだ。
まさかこの時、この言葉が本当になろうとは・・・知る由もなかった・・・・・

江坂ジムファイターの試合前夜はいつもその選手の練習を思い出し試合展開や注意事項を自分なりに考えてみる事にしている。
佐山との練習を頭に描き 「あの右フックだけはもらうなよ・・・」 と考えていた。
試合2週間程前、パートナーがいなかったので急遽俺がグローブを付けてリングに上がった時の事。確かに佐山は減量と最後の疲れのピークが重なりスピードが無かった。しかし再三、俺の狙い澄ました右オーバーハンドがまともに当たった。
「何回同じパンチもらってるんや!」 伊勢の大きな声が飛ぶ。
あいつ、左の引き手が遅かったな。大丈夫やろか・・・。相手もデビュー戦の選手やからな・・・同じ4回戦の選手やから・・・
もう明日がデビュー戦。あれこれ色んな事を考えても仕方がない。

そして試合当日、胸を張って堂々とリングに上がった佐山はゴングと同時にコーナーを飛び出して行った。
互いにデビュー戦。緊張から体が動かず向かい合う時間が長く、俗に言うお見合いの静かなスタート。そんなギコチない新人特有、4回戦独特の試合展開は、得てして緊張の糸が途切れた頃、突如として打ち合いになる事が多い。
そんな例に漏れず、ラウンド半ばから両者はヒートアップし出した。
二人が交差した瞬間、佐山が腰からぶっ飛ぶようにダウン。 心配していた通り佐山の左に合わせられた右フック一発だった。
何事も無かった様に2回は佐山が攻めまくる。後半になれば倍の練習と走り込みでスタミナのある佐山だけにチャンスはまだまだある、そう思わせる戦いぶり。
そして3回。このまま3・4回を押し切れれば逆転で勝てる!攻勢をとり続けて相手をロープに詰めようとしたその時・・・被弾。
今度は崩れる様にダウン・・・またしても右オーバーハンド。
「もう判定では勝てない。最終回やから勝負して来い!もし逆にパンチをまとめられる様なら直ぐにタオルを投げる。そのつもりで勝負を決めて来い!!」
しっかり頷いた佐山はスタミナの限り攻め続けた。あわや逆転KO寸前までに。
終了のゴングが鳴った時、判定は誰の目にも明らかだった。
しかし、勝者よりも敗者に贈られる惜しみない拍手。そんな中でリングの階段を下りて行き佐山のデビュー戦は終わった。

控室、持てる力を精一杯出した佐山を責める者もなく、労いの言葉が飛びかう。
しかし、最後まで勝ちに拘った佐山に笑顔は無い。
「皆が頑張ったって言うてくれる内容やった。でも結果は負けや。次こそはお前自身が心から喜べる試合にしよう!」
そんな言葉と、試合でダメージを受けている時の夜の注意事項などを伊勢が細かく説明し佐山を友達の待つ会場へと送り出した。
そしてこの日の興行のメインエベントが始まろうとした頃、リングサイド席に座る俺の所へ再び佐山がやって来て 「チャンスを頂いたのにすみませんでした。1からやり直しますので又試合を組んで下さい」
その言葉の力強さ、目の輝き、この1敗は 「次に繋がる敗戦になる」 と、その時に確信したものだ。
「任せとけ!」 と、俺の言葉に佐山は深々と頭を下げ、友達と食事して帰ると元気よく帰って行った。 この時の時刻は夜の8時過ぎだったな。

全試合が終わり、車に乗り込んだ俺は先輩ボクサーが経営する Bar に向かっていた。うちの選手が勝った時にいつも一人で寄る Bar “Sugar Ray”。
勝った時にしか寄らない店なんでいつもの様に先輩は 「試合やったんかいな。勝ったんや?!」と。
「よーやりよったんよ。根性だけで勝敗を決めるんやったら勝ちやけどね。でも明日に繋がるから・・・」
選手が負けた時、清々しいとか、嬉しいとか、何て言うのかな、負けて尚 “光”が見えた様な気がした事なんて今まで無かったんよね。
でも大袈裟やなく、この夜はそう思えた、そう思わずにいられなかった。
普段は飲まない酒を(といってもカシスソーダ1杯だけ)飲んで、先輩に試合の話を聞かせるだけ聞かせて店を出た。
少し上機嫌でいつもの帰り道を車で走っていると家からの携帯が鳴った。
時計は10時半を過ぎた頃やったかな、えらい遅くなってしまったんで嫁さんお怒りやな(苦笑)と恐る々出てみると、
「今日試合に出た佐山君が倒れて救急車で運ばれたらしいで!東尾君の携帯に電話して欲しいって!!」
 そんな・・・・・・

続く


押忍



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